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2024-08-28 17:50:00

リラックスタイム

忙しくなると、机の上は資料の山となりやすい。一段落するまでなかなか片付かない。

本来は、毎日の仕事が終わるたびに片付けた方がストレスが少なく効率良く仕事ができると思うが、なかなか難しい。

 

一方、家の中に目を向けると食後の食器洗いは仕事と違ってその都度片付けなければならない。

楽しい食事の後でお腹も満たされているためか、この洗い物というのはとっても億劫だ。

家事ストレスの中でも上位にあがる。

何を隠そう、わたし自身が我が家の洗い物担当であるから、そのストレスもよく理解できる。

 

最近は家事ストレス軽減のための様々なアイデアがあるようだが、やはり食器洗いの強い味方といえば食器洗浄機だろう。

住宅を新築される際にはいつもお勧めしている。それもミーレなどの海外製の大型食器洗浄機だ。導入されたお客様に尋ねると、一度に全ての食器が入るし汚れが良く落ちるとたいへん好評だ。本当に重宝しているようである。

手洗いから解放され、食器洗浄機に洗い物を任せれば自由な時間が増える。家族と過ごしたり趣味を楽しんだり楽しみが増える。リラックスタイムを確保することがストレス軽減には大切だ。

 

昨今ストレスフリーという言葉を聞く。ストレスがないという意味らしい。

さまざまな家事ストレスから解放されれば自分の時間を有意義に使えるし、心身の健康のためにも良い。

食器洗いだけではなく、洗濯、炊事、掃除、ゴミ出しなど、そのための家電や道具は今も進化し続けている。

それでは家事ストレス軽減のために建築的に何ができるであろうか。やはり家事動線の効率化が最優先であろう。回遊動線や動線の短距離化などにより、無駄な動きを少なくすること。それに加え物の出し入れがスムーズに行える収納などアクションを最小限にできるように考える必要がある。また、ちいさいカウンターなどを設けてお気に入りの場所をつくることで、億劫な家事を楽しむことができると思う。

 

世の中は、便利になって短時間で目的が達成できるようになったが、わたしたちはその余剰時間をまた別の仕事に充てているようにも感じる。

便利さは忙しさも連れてきて、ますます忙しくなった気さえする。

 

本当にストレスを軽減させるためには、増えた時間を別の仕事に充てるのではなく、心身のリラックのために使うことが大切だと思う。日本人は休むのが下手らしい。まずは休むことを許すことが必要だと思う。

 

家事軽減された時間はリラックスした時を過ごすのを許してあげて欲しい。

2024-08-18 09:14:00

試行錯誤

日本の最初の住居建築は、縄文時代の竪穴式住居だと言われている。

深さ60㎝ほどの穴を掘り小屋を被せるという極めてシンプルなデザイン。掘立柱を利用した屋根の架構も洗練されている。これは集落の寄りによってあっという間に完成したそうだ。

当然、竪穴式住居もいきなり発明されたのではなく、先人たちの数知れない試行錯誤により徐々に形作られたものだろう。耐用年数も15年ほどだというから驚きだ。更新の際も廃材は自然素材であるため野山に捨てるだけで良い。今で言う、循環型社会であったようだ。

 

おそらく竪穴を掘った理由は、地面より下の方が、冬は暖かく夏は涼しいというのを知ってのことであろう。茅葺きの屋根は断熱の効果があり、棟部分には換気口もある。煮炊きと暖房のための炉もあったようだ。出入り口から棟への通風も考えられている。そしてワンルームというシンプルなプラン。まさに日本最初の全館冷暖房住宅だ。

 

一方、現代の全館冷暖房住宅というと、床は地面から60cmほど高いところにある。そのため、床下又は基礎面で断熱しなければならない。また壁や屋根の断熱においても、茅などの自然素材は集められないから、ガラス繊維やプラスチック系の断熱材を貼ったり充填したりすることになる。また、冷暖房はエアコンなどの設備機器を利用している。自然素材だけで建てられたのではないから、解体後の廃材の処分には気を使わなければならない。

当然だが、縄文時代と違って、自治会の寄りで作られるわけではないから、大工をはじめとした数々の専門業者によることになる。設備機器もメーカーで作られる。流通も含めて住宅一棟作られるのに多くの人間が関わっている。

 

現代社会はとっても複雑で高度だ。シンプルでわかりやすい方が良いと言っても縄文時代には戻れない。高度な情報化、多様性などが叫ばれるが、快適な住まいを作るという目的は縄文時代からずっと変わらないだろう。

 

一昔前に比べ、一般住宅の建築もますます高度な技術が要求されてきている。高断熱による温熱環境の高性能化と数値化、構造計算による耐震性の確保、再生可能エネルギーによる省エネ化、メンテナンス性の良さ、耐久性、設計のBIM化など、盛りだくさんだ。

文化は時代と共に変わって行くが縄文の精神は引き継いでいきたい。少しでも良い方向へ向かって、新しい価値を創造していかなければならない。

 

現状維持は後退を意味すると誰かが言った。多くの課題を抱えながら、先人たちのように試行錯誤を繰り返し、自らどんどん変化していかなければならない。

2024-08-07 19:01:00

家族の物語

昭和50年代、私が子どもの頃のこと、借家住まいの我が家では、布団を敷くとほとんど水平面がなくなるほど狭かった。つまり床というものが布団で覆われてしまう。

であるから、起床した時は、真っ先に布団を押入れの中に揚げなければ、生活するスペースがない状態だった。

そんな貴重な水平面だから、床にモノを散らかしておくとよく母によく怒られた。

冬が寒いからなのか、畳敷きの床にカーペットを敷いたりしていたのも、おかしくて懐かしい。

とにかく、この床という建築的な水平面の上で、あらゆる家族の物語が紡がれるのだ。

 

人間はこの水平面がないと何もできない。歩くことも座ることもままならない。また、テーブルや机のような水平面がなければ食事も仕事も勉強もできない。

だから、床面積なるものが建築で重要視されるのもわかるし、床面積そのものが財産の基準となるのも理解できる。

 

我々の国では、清潔感を保つために地面より少し高いところに水平面を作り、靴を脱いで生活する。そのためか埃や砂が床に上がるのを嫌うし、掃除好きだ。床に物をちらかしておくのも嫌う。クッション性があり清潔な畳の床では、布団を敷いて寝る。床の間のように一段あげて室礼の空間をつくることもある。

日本人にとって床は特別なのだ。

 

このように、誰もが床にこだわりを持っているので、設計段階で、住まいの床をどんな材料で仕上げるかということに関しても、とても真剣に向き合うこととなる。

手入れのしやすさから、リビングにフローリングを選択することが多いのだが、やはり無垢のフロアを選ばれる方が多い。なにしろ温もりがあり肌触りが良いし、見た目にも落ち着きがある。

塗装は合成樹脂系のウレタンなどは使わず、植物油成分のオイル系自然塗装をおすすめしている。木の温もりを損なうことなくフロアを保護してくる。ウレタン塗料などを塗ってしまうと表面にプラスチックの膜をつくるので、それでは無垢の材料の良さが台無しになってしまう。

しかしながら、合板フロアなどに比べて高価なので、予算削減のために個室だけは合板フロアで我慢する場合もしばしばだ。

また、メンテナンスを考えてキッチンやトイレなど水周りだけビニルタイルなどで仕上げたりする。

最近は、畳敷きを採用する部屋が激減した。しかし、畳の柔らかさや安らぎ感は捨てきれないところもある。クッション性もあり掃除もしやすいため、予備室や小上がりなどに畳を用いることもある。赤ちゃんのおむつ替えなどにとても便利な床となる。

床の仕上げの選択ついては、いつも施主の葛藤が垣間見られ、実に面白い。

 

住宅が完成して、しばしばその引き渡しに立ち会う。待ちに待った夢のマイホームの完成。

広々としたリビングの真新しい無垢フローリング。施主が肌触りを手で確かめながら

嬉しそうな表情を見せてくれる。

新たな家族の物語が紡がれる最初の日だ。

 

 

2024-07-20 09:44:00

空と雲が見えた

1980年代の終わり、わたしは神奈川の県立高校を卒業し、美大を受験するために浪人した。新宿の予備校に通って毎日のようにデッサンなどに励んだ。

大人だか子どもだかわからない18歳の人間に、新宿は巨大だった。副都心の高層ビル群を見上げると、夜空の星を見上げた時のように自分が取るに足らない存在のように思えた。

 

新宿NSビル。

30階建てのこのオフィスビルは中央が全て吹抜けになっていて1Fのフロアは一般に開放されていた。マックで買ったポテトを食べながら、予備校の友人と見えない将来を語った。いつもと同じ味。心が吸い込まれそうな吹抜け空間を見上げると、全面ガラス張りのトップライトから空と雲が見えた。

 

 

狭い借家にしか住んだことのないわたしは階段も吹き抜けも知らずに育ったので、吹き抜け空間には大層憧れた。だからなのか、住宅を設計する時には、できるだけ吹き抜けを作るようにしている。

階と階とを繋ぎ、立体的な空間を作り出す吹抜けには、この空間的な豊かさと同時に温熱環境の繋がりとしての役割もある。2階建の住宅であれば、吹抜けを介して1階の暖気を2階へ、又は2階の冷気を1階へと導く熱の経路として利用できる。

冬季においては、暖房機に暖められた空気は軽いため、吹抜けを介して上昇し1階から2階へ運ばれる。そのとき冷たい空気は下階へ移動してきて同じように暖房機であたためられる。それらを繰り返し、やがて家全体が快適な温度帯に安定してくる。

これが可能なのは断熱性能の良い住宅でなければならない。よく、吹抜けは寒いんじゃないかと言われる方がいるが、それはそもそも住宅の断熱性能が低く家全体を温めることができないためだ。

高断熱の家ならば暖房機の温度設定はあまり上げる必要はなく、連続運転させるだけで、家中がポカポカになる。また夏は、2階のホールなどに設置したエアコンで冷房することにより、吹抜けを介して下階に涼風を運んでくれる。家全体が涼しい温度帯になる。

大きな吹き抜けはいらない。階段とは別の位置に小さな吹き抜けがあれば十分。それだけで、空気のつながりが生まれて豊かな空間が生まれる。

 

また2階が個室や寝室の場合の廊下を挟んで1階のリビングとも連携ができる。プライバシーを守りつつも、家族と一体的な空間にいることも意識され、心理的な安心感が生まれる。

 

大きい吹抜けを作る時は、構造的な弱点にならないようにすることと、音の反響の対策をとるように注意しなければならない。

吹き抜けの上の方にハイサイドライト窓を設置したり、ルーフウィンドウなどでトップライトを設置することもできる。吹き抜けをつくることにより、とっても明るく贅沢な空間ができるのだ。

 

空と雲が見える。

 

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