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家族の物語
昭和50年代、私が子どもの頃のこと、借家住まいの我が家では、布団を敷くとほとんど水平面がなくなるほど狭かった。つまり床というものが布団で覆われてしまう。
であるから、起床した時は、真っ先に布団を押入れの中に揚げなければ、生活するスペースがない状態だった。
そんな貴重な水平面だから、床にモノを散らかしておくとよく母によく怒られた。
冬が寒いからなのか、畳敷きの床にカーペットを敷いたりしていたのも、おかしくて懐かしい。
とにかく、この床という建築的な水平面の上で、あらゆる家族の物語が紡がれるのだ。
人間はこの水平面がないと何もできない。歩くことも座ることもままならない。また、テーブルや机のような水平面がなければ食事も仕事も勉強もできない。
だから、床面積なるものが建築で重要視されるのもわかるし、床面積そのものが財産の基準となるのも理解できる。
我々の国では、清潔感を保つために地面より少し高いところに水平面を作り、靴を脱いで生活する。そのためか埃や砂が床に上がるのを嫌うし、掃除好きだ。床に物をちらかしておくのも嫌う。クッション性があり清潔な畳の床では、布団を敷いて寝る。床の間のように一段あげて室礼の空間をつくることもある。
日本人にとって床は特別なのだ。
このように、誰もが床にこだわりを持っているので、設計段階で、住まいの床をどんな材料で仕上げるかということに関しても、とても真剣に向き合うこととなる。
手入れのしやすさから、リビングにフローリングを選択することが多いのだが、やはり無垢のフロアを選ばれる方が多い。なにしろ温もりがあり肌触りが良いし、見た目にも落ち着きがある。
塗装は合成樹脂系のウレタンなどは使わず、植物油成分のオイル系自然塗装をおすすめしている。木の温もりを損なうことなくフロアを保護してくる。ウレタン塗料などを塗ってしまうと表面にプラスチックの膜をつくるので、それでは無垢の材料の良さが台無しになってしまう。
しかしながら、合板フロアなどに比べて高価なので、予算削減のために個室だけは合板フロアで我慢する場合もしばしばだ。
また、メンテナンスを考えてキッチンやトイレなど水周りだけビニルタイルなどで仕上げたりする。
最近は、畳敷きを採用する部屋が激減した。しかし、畳の柔らかさや安らぎ感は捨てきれないところもある。クッション性もあり掃除もしやすいため、予備室や小上がりなどに畳を用いることもある。赤ちゃんのおむつ替えなどにとても便利な床となる。
床の仕上げの選択ついては、いつも施主の葛藤が垣間見られ、実に面白い。
住宅が完成して、しばしばその引き渡しに立ち会う。待ちに待った夢のマイホームの完成。
広々としたリビングの真新しい無垢フローリング。施主が肌触りを手で確かめながら
嬉しそうな表情を見せてくれる。
新たな家族の物語が紡がれる最初の日だ。